遺産分割・相続のお困りごと

1. どんな遺産があるかわからない場合

金融機関や納税通知、不動産登記簿などをチェック

亡くなった方(被相続人)が自分の財産を把握しておらず、どんな遺産があるかわからない場合があります。

その場合、まずは被相続人の住所に届いた郵便物をチェックし、銀行や証券会社からの連絡がないかよく調べます。また固定資産税の納税通知が届いていないかを見ます。これにより、口座のある銀行や証券会社が分かってきます。また、不動産登記簿は誰でも閲覧・謄写ができますので、ご実家の土地建物など心当たりのある不動産があれば、登記簿を見れば誰が名義人かが明らかになります。なお、都税事務所や市役所の資産税課などで、固定資産税課税台帳の閲覧請求をして、被相続人がどのような不動産を所有していたかを調べることもできます。

銀行の取引履歴も重要な手掛かりに

相続人は、他の相続人の同意を得なくても、単独で、被相続人の生前の銀行の取引履歴の開示を求めることができます。預金通帳の所在がわからない場合や、通帳を所持する者が通帳の開示を拒否している場合でも、取引のある銀行がわかれば、銀行に連絡をして取引履歴を開示してもらうことができます。必要書類は銀行によって違いがありますので、取引履歴の開示を求める際に確認しておきましょう。

なお、銀行等への問い合わせに際しては、被相続人の誕生から死亡まで全ての期間の戸籍謄本が必要となります。謄本の原本(オリジナル)を窓口で提示し、コピーを提出するのが通常です。過去の戸籍謄本の取り寄せ方ですが、死亡時の戸籍謄本(又は除籍謄本)及び戸籍改製前の「原戸籍」を取り寄せます。本籍のある市区町村が遠方だったりすると、取り寄せにある程度の時間を要します。なお、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を取ることにより、相続人の範囲を確定する手掛かりになりますので、戸籍の取り寄せは必ず行っておくべきでしょう。

銀行の取引履歴を丹念に調べると、そこから証券会社との取引がわかることがあります。その場合、証券会社に対して、被相続人名義の株式・投資信託がないか問い合わせることができます。

2. 遺産分割の提案に納得できない場合

遺産目録に納得できない場合

遺産分割を行う場合、遺産目録を作ったうえで、遺産を分ける話し合いをすることが通常です。相手方が遺産目録を用意しない場合は、相手方に遺産目録を出させるか、協力して遺産目録を作っていくことになります。

また、相手方が提示した遺産目録に納得できない場合は、裏付けとなる資料(通帳や残高証明書など)を開示してもらいます。もし開示が受けられない場合は、直接銀行等に問い合わせて開示してもらう方法があります。

法定相続分通りの提案がなされなかった場合

各相続人の相続できる割合は、民法900条、901条によって決められています。これを法定相続分といいます。例えば、相続人が、配偶者と子ども3人だった場合の法定相続分は、配偶者は2分の1、子はそれぞれ6分の1です。

この点、相続人全員が納得すれば、法定相続分と異なる割合での遺産分割が可能です。そのため、法定相続分通りではない遺産分割自体に問題があるというわけではありません。特定の相続人が遺産をもらわないということも可能です。

しかし、遺産分割協議がまとまらないため家庭裁判所が遺産分割の審判を行う場合は、原則として法定相続分に基づき遺産分割が命じられます(但し、特別受益、寄与分がある場合は、民法903条、民法904条の2により相続分が修正されます)。そのため、法定相続分と異なる割合での遺産分割案に対して不満がある場合には、率直に相手に伝えて再考を求めたほうが良いでしょう。

なお、一度遺産分割協議が成立してしまえば、それが法定相続分通りでなかったとしても、合意を覆すことはできません

また、債務については、自動的に法定相続分通りの割合で相続されますので、相続人間でこれと異なる分け方をしたとしても債権者に対抗できません。そのため、遺産をもらわなかったとしても、債務だけ相続してしまうリスクがあります。

もし、遺産は特に要らないが、債務を相続してしまう心配がある場合は、被相続人の死亡から3か月以内に相続放棄の手続を取るべきでしょう(民法915条1項)。

生前贈与が反映されていない場合

相続人のうち、被相続人から多額の生前贈与を受けた者がいる場合、法定相続分通りに分けたのでは不公平です。この点「生計の資本として贈与を受けた」者がいる場合は、その生前贈与の金額を遺産に持ち戻して計算することになります(民法903条1項)。

例えば、長女、次女、三女の3名が相続人であり、長女が生前に自宅の建設資金として1000万円の贈与を受け、遺産が2000万円残った場合を想定してみましょう。法定相続分は3分の1ずつですので、2000万円÷3=666万6666円ずつ財産を分けるべきとも考えられます。しかし、1000万円という多額の生前贈与は、通常は遺産の前渡しと評価できますので「生計の資本としての贈与」として特別受益財産の持ち戻しを行います。特別受益財産の持ち戻しを行った場合、2000万円(遺産)+1000万円(特別受益財産)の3000万円を相続財産とみなします。この場合、法定相続分そのままだと各相続人は1000万円づつの相続分を持つことになりますが、長女は生前に1000万円をもらっているので特別受益として控除し、長女0円、次女1000万円、三女1000万円の割合、すなわち0%、50%、50%の割合で相続することになるのです。

もっとも、生前贈与の場合に、特別受益財産の持ち戻し計算ができるのは、遺産の前渡しといえるだけの多額の贈与であることが必要になります。数十万円単位の生前贈与は通常は特別受益とはなりませんし、特定の相続人だけが月々小遣いをもらっていたような場合も特別受益として評価することはできません。

また、被相続人が生前贈与を持ち戻しの対象としない旨の意思表示をしていた場合も、特別受益財産としての持ち戻しはできません(民法903条3項)。

このように、遺産分割に当たって生前贈与を考慮すべきだと主張することは当然可能ですし、遺産の前渡しと評価できるほど多額の生前贈与である場合は、民法903条1項に基づき、家庭裁判所での調停・審判において特別受益財産の持ち戻し計算求めることができます。しかし、そもそも「遺産の前渡しと評価できるほど多額の生前贈与」であるか否か自体が争いになることが多く、また被相続人が持ち戻し免除の意思表示(民法903条3項)を行っていた場合はその意思が優先しますので、生前贈与があったからといって必ず遺産分割において考慮されるわけではないことに注意が必要です。

3. 遺産分割の話し合いがまとまらない場合

遺産分割の話し合いがまとまらない場合は、他の相続人全員を相手方として、相手方のいずれかの住所地を管轄する家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることことができます。調停は、家庭裁判所の調停委員会(裁判官1名及び調停委員2名)主導の下で、遺産分割について話し合いをするものです。調停がまとまらない場合は、事件は裁判所による審判手続に移行し、裁判所の判断で遺産の分割が明示されることになります。

4. 遺言書に納得ができない場合

その「遺言」が本当に遺言としての条件を備えているか確かめる

故人が特定の相続人に特定の遺産を(あるいは遺産の全部を)相続させる旨の遺言がある場合、その遺産は、遺言によって当然にその相続人に移転します。その財産については遺産分割協議の対象外となります(但し、債務は遺言に関わらず法定相続分に従って相続されます。遺言で債務の負担者を決めることは可能ですが、債権者に対して対抗することはできません)。

もっとも、遺言は、民法の定める方式に従わなければすることができません(民法960条)ので、方式が違っていれば遺言としての効力が否定されます。例えば、音声や動画で「遺言」を残しても法律上の遺言ではありません。また、自筆で遺言を作る場合も全文、日付、署名を自書し、印を押すなど細かい決まりがあり、決まりに従わない遺言は遺言としては無効となります(民法968条)。このように、遺言書に納得ができない場合は、そもそもその「遺言」が法律上の遺言としての条件を満たしているかをチェックする必要があります。

遺言の有効性を争う

形式上遺言が存在しても、遺言をした人がたとえば重度の認知症で意思能力を欠いている場合は無効となります(民法3条の2)。このような場合に、遺言の有効性を争い、遺言無効確認の調停や訴訟を行う方法があります。もっとも、既に死亡した遺言者の遺言当時の判断能力の立証は難しく、勝訴することは容易ではありません。

相続人全員の合意があれば遺言とは異なる遺産分割協議も可能

相続人全員の合意がある場合は、遺言書と異なる内容の遺産分割協議を成立させることができます。但し、遺言によって多くの遺産を得た相続人いる場合、その相続人が自らに不利な遺産分割に賛成することはあまり期待できないと思います。

遺留分を行使する

有効な遺言書がある場合でも、兄弟姉妹以外の相続人は、遺言によって遺産をもらった人から、自らの「遺留分」にあたる金額の支払を受けることができます。遺留分は、直系尊属(被相続人の父母や祖父母など)のみが相続人である場合は3分の1×法定相続分、それ以外の場合は2分の1×法定相続分です。

例えば父親が死亡し、母親と長男、次男が残された場合は、母親の遺留分は2分の1×2分の1=4分の1、長男と次男の遺留分はそれぞれ、2分の1×4分の1=8分の1です(民法1042条)。

この設例で、父親に800万円分の遺産があり、これをすべて長男に相続させるという遺言があったとします。その場合の母親の遺留分は800万円×4分の1=200万円、次男の遺留分は800万円×8分の1=100万円です。

すべて長男に相続させるという遺言は、これらの遺留分を侵害していますから、母親や次男は長男に対して遺留分侵害額請求をすることができます。

遺留分侵害額請求は、遺留分を請求する人が、相続開始(被相続人の死亡)及び遺留分を侵害する内容の生前贈与や遺言があったことを知った時から1年を経過する前に行わなければならず、1年間行使しないときは時効により消滅します(民法1048条)。遺留分侵害額請求を行うために裁判を起こす必要はありませんが、電話等で遺留分侵害額請求をしても証拠が残りませんので、通常は遺留分侵害額請求を行うことを明記した内容証明郵便を相手方に発送することになります。

また、遺留分侵害額請求を行った場合でも、遺産を受け取った者が遺留分侵害額の支払に応じない場合は、遺留分侵害額請求の調停を起こす必要があります。調停が成立しない場合は、別途、遺産を受け取った者に対して訴訟を起こす必要があります。

なお、有効な遺言がある場合、遺留分を侵害する内容のものであったとしても遺言自体は有効です。そのため遺留分を侵害された相続人は、金銭支払の請求ができるにすぎず、遺産自体に対して権利を持つわけではありません。

遺言・遺産分割問題での弁護士費用の例

遺言書の文案作成

20~50万円(税別)

相続人・相続財産調査

30万円(税別)

遺産分割調停・審判、遺留分侵害額調停

着手金

50~150万円(税別)

※法的手続によって得る経済的利益の8%を標準としますが、最低着手金を50万円(税別)とし、着手金の上限を150万円(税別)とする趣旨です。

報酬金

取得した遺産が300万円以下の場合遺産の16%(税別)
取得した遺産が300万円をこえ3000万円以下の場合取得した遺産の10%+18万円(税別)
取得した遺産が3000万円をこえる場合取得した遺産の6%+138万円(税別)
取得した遺産が3億円をこえる場合取得した遺産の4%+738万円(税別)

遺言無効確認調停・訴訟

着手金

50〜100万円(税別)

報酬金

遺言の無効が確認された場合50〜200万円(税別)

ご相談事例

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  • 相続(遺言作成、遺産分割、遺留分侵害額請求等)
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